判決 平成14年8月13日 神戸地方裁判所
ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件
〈事件概要〉
被告人(元大学教授)は、元交際相手の(当時49歳)に対して、好意の感情または、それが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、平成13年11月頃より、
勤務先から帰宅途上の同女に対し、待ち伏せ、つきまとい等の行為を反復継続して行い、同女に対し、その身辺の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により、ストーカー行為をしたものである。(以下、本件という。)
被告人は、昭和58年に神戸市内の公立高校に赴任した際、同じく教師として赴任してきた同女と不倫関係をもつようになり、その後不倫関係は継続するが、平成13年1月に、不倫関係を清算しようとした同女から別れ話を持ちかけられたにもかかわらず、同女を手放したくないとの思いから、同女に対して、架電、メール、いやがらせや中傷行為に及ぶ。
同年9月20日、神戸西警察署から、同女に対するストーカー行為の件で、出頭を求められ、取り調べを受けた際、「今後一切ストーカー行為はしない。」旨の誓約書を作成したにもかかわらず、この誓約をも守らず、本件犯行に及んだ。さらに、被告人は本件起訴の翌日、弁護士を介する場合のほか、被害者に対して、直接間接を問わず、一切接触してはならない旨の条件を付せられた上で保釈を許可されたにもかかわらず、被害者の引っ越し先であるマンションを単独で訪れて被害者との接触を図り、これにより保釈を取り消されたというものである。
〈判決〉
懲役6ヵ月(執行猶予3年)
被告人は前科・前歴がなく、さらには現役の大学教授が起こした事件として報道され、大学教授のほかに有していた教育機関における様々な地位等を失うに至っており、これにより被告人は相当の社会的制裁を受けたといえる。そして、保釈条件を遵守しなかったために保釈が取り消されたとはいえ、被告人の未決拘留期間が約4ヵ月半に及んだこと、諸事情を考慮したうえで、今回は被告人に自省を求め、社会内において更生の機会を与えるのを相当とした。
〈考察〉
被告人は、執念深く被害者につきまとい、自らが行った警察署への誓約や、さらには保釈条件をも破って被害者と何とか関わりを持とうとしているため、極めて執拗かつ悪質なストーカーであり、これに対する被害者の精神的苦痛、不安感、疲弊感は大変大きいものであると思われます。
被害者は約9ヵ月の間、一連のストーカー行為を受け続けており、ストーカーに対する絶対に有効な対策があるというわけではないのですが、早い段階で被告人に対し、内容証明を送ったり、警察による警告を行うこともひとつの手立てではないかと思いました。しかし本件では、被告人が簡単に警告を無視しているため、効果があるのかは少し疑問です。本件のような場合、最終的な告訴をする方が効果はあるのではと思いました。
被告人と被害者との不倫関係が約20年続いていたことや、被告人が暴力など被害者の生命を脅かすような態度ではないことなどを考慮すると、被害者がすぐに警察に通報するに至らなかったため、被告人のストーカー行為がエスカレートしてしまったようにも思えます。